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ヴィンテージを所有する意味

更新日:2021年4月10日

私はヴィンテージの椅子が好きで、最初に購入した椅子はもう25年以上も前になります。初めて購入したのは、L.A・ローズボウルのフリーマーケットでした。イームズのサイドシェルにそっくりなシルエットのその椅子は、よく見かけるイームズにはない腰の部分に大きめの開口部があるもの。まだイームズをなんとなく知ってるくらいの頃だったので、見たことのない型のイームズそっくりのシェルに足はXベース、しかも値段は75ドル。「もしや珍しいイームズのシェルチェアでは!?」と一人で興奮したものです。それが私のヴィンテージの椅子との始まりです。


最近はスタジオ兼ギャラリーでヴィンテージを展示していることもあり、類は友を呼ぶといわんばかりに地元のヴィンテージ好きの方との出会いが増えてきました。


展示してある椅子を見て来店されたお客様とついつい長話をしてしまうことも多々あり、ヴィンテージを通しての人との出会いはまさに一期一会。これもヴィンテージの楽しみ方の一つだと常々感じています。


そのような中で最近気になっているのは、インターネット通販によるディール(取引)です。インターネットの普及によって、世界中のモノが手軽に手に入るようになった反面、以前のようにモノを取得する際に発生していた「人との出会い」や「モノにまつわる逸話」といった副産物を得る機会が減っています。


以前はショップやディーラーから購入する際、その商品をどのようにして手に入れたとか、そのモノへの思いといった事柄もモノと一緒に手に入れることも容易にできましたが、インターネットでは商品のコンディションと価格くらいで、それ以外を知ることはほとんどありません。誰もが知っているレアなモノをいかに安く手に入れるかといった価値観が大勢を占めて、「どこで買った」とか「誰から買った」といったことがほとんど語られなくなった気がします。


古いモノの醍醐味はそれにまつわる歴史です。どこのブランドとか何年代のものといった表面的なことだけでなく、そのモノがどのような時代背景や系譜で生まれ、それがどのような歴史を辿って自分の目の前に辿り着いたのかといった事柄。古いモノには必ず歴史がありますが、途切れた履歴には単にモノの価値しか残っていません。履歴のないモノはもはや本物であろうと偽物であろうと関係なく、単にそのモノの値段がいくらかといったことしか残っていないのです。


最近読んだ昔の雑誌の記事にとても気になった部分がありました。

それはL.Aにある『OK』ストアのラリー・シェーファー氏の住まい”ルドルフ・シンドラーの家”にまつわる話です。


2009年にラリーはこの家を手に入れたそうですが、著名な建築家が1935年に建てた家には、それまでに建築ツアーで訪れたことがあるといった人が何人もいて、家の隅々まで知っていたりすることがあるそうです。そんなときラリーは「よく考えてみると自分が住む何十年も前からこの家は存在し、自分がいなくなった後も存在し続けるんだ。つまり自分が買ったといっても、この家の長く続く時間の一部分だけを所有するといったことなんだ。」


私はこの部分を読んだときに、「まさにヴィンテージを所有するということは、こういったことなのだ」と思いました。...と同時に「これから所有する新品のモノにも同じことが言えるのだ」とも。


それまでは私もモノに対してそこまで深く考えたことはありませんでしたし、ある面では「自分が買ったのだから、捨てようがどうしようが自分の好きにして良いのだ」とも思っていました。まして、そのモノが「どこから来て、どこへ行くのか」まで考えたことはほとんどありません。


私の尊敬する東海大学名誉教授で家具研究家の織田憲嗣先生の記事には、よく”丁寧な暮らし”といったキーワードが出てきます。私は最近になってようやくそのことの意味を少し分かったような気がします。


ちなみに冒頭の25年以上前に初めて買った椅子は今でも自宅にあります。その後に購入した沢山のイームズシェルチェアは、ミッドセンチュリーブームのときにそのほとんど手放してしまいましたが、素性の分からなかったその椅子だけ当時の思い出と一緒に今も使われています。



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ピエール・ガーリッシュ

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