ファッションとインテリアはその人の外見と内面を表すものとして密接な関係にあります。
しかし、人は中身が大切といいながらも外見の方へ意識もお金もかける人の方が多いのも事実です。
国内ファッション業界の市場規模は、およそ9兆円(2019年)。それに対してインテリア業界は1.3兆円(2019年)とファッション業界の15%未満という数字。
日本人の平均年収が450万円だとして、某FPの方による理想の被服代は2%だそうで、そうするとファッションに使う平均費用は年間で9万円程。それに先ほどのファッション業界とインテリア業界の市場規模の比率15%を掛けると、人々がインテリアにかける年間費用はわずか1万5千円程度ということになります。
これはあくまでも平均値から算出した数字ですので、単純に図れない部分も沢山あると思いますが、全産業におけるインテリアの市場規模が小さいことには変わらないので、街で見かけるインテリアショップやインテリア雑誌など全てにおいて少ないことには違いはありません。
そもそも何故インテリアに興味を持つ人が少ないのかといえば、一つは家は基本的に人に見せたり、見られたりすることが少ないので、特に意識していない人が多いことが一番の理由かと思います。
特に男性は仕事が優先でそもそも家にいる時間が短く、家は寝るだけと考えている人も多く、共働き世帯では効率優先になりがちで、生活必需品ではないインテリアに関してはお金も意識もかけられないといった人も多いことでしょう。
また家具や家電をはじめとするインテリア用品は、洋服などと比べると使用期間が長く、購入費用も高額になり、買い替え頻度が低いことも原因の一つに挙げられます。
そのようなことがインテリア市場が盛り上がらない根本的な原因ではないかと思われますが、逆にインテリアにお金をかける人はどのような人でしょうか。
一般的な『お金持ち=豪邸』というイメージから、インテリアに凝るのはお金がある人の道楽だという印象が強いのかも知れませんが、実際にはインテリアやファッション関係といったお仕事をされているデザイン感度の高い方が多く、年齢も30代後半から50代くらいの女性の方が多いようです。
男性よりも女性の方がファッション感度が高い方が多いので、インテリアにおいても女性が中心になりがちですが、近年はファッション関係の仕事をされる男性も多くなってきているのを反映して、ファッションだけでなくインテリアにも拘りを持つ男性も増えてきています。
但し、男性はコレクター気質が強い傾向にあるため、そのような趣味嗜好を反映させやすい、いわゆる『名作家具』や『ヴィンテージ家具』といったものを好む傾向にもあり、とりわけヴィンテージ家具のコレクターとしても世界的に著名なNIGO氏をはじめ、90年代に男性ファッション関係者を中心に起こったイームズチェアをはじめとするミッドセンチュリーブームは、まさにその最たる例といえるのではないでしょうか。
また海外に目を向けると80年代のニューヨークでは、マーク・マクドナルド氏の家具ギャラリー「Fifty/50 Gallary」には、アンディ・ウォーホルやジャン・ミシェル・バスキア、ロバート・メイプルソープといった著名人がミッドセンチュリーの家具を高値で買い求めていったそうですが、男性の場合はどちらかというと、インテリアを楽しむというよりもコレクションの一部として捉えているように思います。
前述にもありますように家具やインテリアは必需品ではない上に、有名な海外ブランドやヴィンテージ家具などは、普通の家具屋さんで扱っているものよりも遥かに高額です。日本のインテリア業界の売上上位10社にはニトリを始め、無印良品やイケア、ナフコといった比較的ロープライスな家具を扱っている企業が占める中、それらよりもやや高めの価格帯のアクタスや、世界的にも有名な高級インテリアブランドであるカッシーナに至っては、椅子一脚で20〜30万円が平均価格帯で、ソファーに至っては100万円を超えるものも珍しくはありません。
インテリアに興味があるといっても、そのような高価な家具を買えるのは一握りの人しかいませんし、いくらファッション感度が高い人でも、そもそも人に見られる機会が少ないインテリアに、そこまで拘る人は少ないのが現状です。
ファッションもインテリアも自己表現の一つの手段ですが、ファッションは自己顕示欲の側面が強いのに対して、インテリアは基本的に人に見せるためのものではありません。お洒落な格好をして人に会うと褒められたり、優越感を感じたりすることで自己だけでなく、他者承認欲求も満たしてくれますが、インテリアは自分自身が心地よく感じるか否かなので、自己承認欲求だけを満たすものです。
一昔前に4畳半のアパート暮らしでフェラーリに乗っている人の例え話がよくありましたが、それは高級外国車に乗っていると皆から注目を浴びることで自身の承認欲求を満たすものです。クルマ好きの人にすれば何が悪いのかと言われそうですが、皆が注目するのはクルマもさることながら、そのクルマに乗っている人がどんな人でどのようなライフスタイルを送っているのかも含めて興味があるものです。
高級外国車を乗り回し、有名ブランドの服に身を包み、他人が羨むようなライフスタイルを送っているように見えても実際には、4畳半のアパートに住んでカップラーメンを啜っている生活を羨ましいと思う人は少ないでしょう。このような人は稀だとは思いますが、それでも見栄にお金をかける人は多いもので、冒頭にも述べたようにインテリアにかける年間費用が、わずか1万5千円程しか使われていないといった数字にそのような面が表れているのかも知れません。
本当に魅力的な人はもちろん外見も素敵ですが、それ以上に人柄や話も奥行きがあったり、お宅に伺うとインテリアもその人のパーソナリティが感じられるような趣があり、案外モノが多かったりします。一つ一つに拘りやストーリーがあり、そこも含めて興味深かったりするものです。そのような人たちは意外と高級外国車やこれ見よがしなブランドものを身に付けたりはせず、少しだけ個性的な装いをさりげなくされていることが多い気がします。
ファッションとインテリアはどちらも生活必需品ではありませんが、人生を豊かにするのに大切な要素であることには違いありません。決して裕福だからといってファッションやインテリアにお金をかけているわけでなく、本当の豊かさの意味を知っているからこそ、ファッションに限らずインテリアにも高い関心を持たれるのだと思います。
人によって収入の違いはあれど、人はみな限られたお金と時間の中で暮らしています。そのお金と時間をどこに費やすかによって、その人の人生は決まっていくもの。他人からどう見られるかも大事なことですが、それ以上に自分自身が日頃から幸せを感じながら暮らせるような環境を整えることこそが、本当の意味で豊かな人生を歩むことにつながるのではないでしょうか。
「その人の周りにあるものが、その人をつくる」オランダ人のデザイナー、マルセル・ワンダースの言葉にもあるように、住まいは衣服以上に人に影響を与えるもの。
インテリアとはまさに人の内面を表す言葉です。インテリアに拘ることと高価な家具を買うことは同じではありません。ファッションに拘っている人が皆、有名ブランドの服に身を包んでいるわけではないように、インテリアも自分の価値観に合うものを一つ一つ丁寧にものを選び、そうやって選んだものを大事にしながら共に暮らすことに本当の価値や意味があるのだと思います。
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