• Yuichiro Noguchi

暗いのが好きという人はいません。

更新日:2021年11月20日

照明を語る際に必ず使われる表現に「暗い」という言葉があります。

谷崎潤一郎氏の有名な著書『陰翳礼讃』でも「仄暗い中で...」といった表現があるように、明るさの対比として「暗い」という表現はとても頻繁に登場します。


「暗い」という言葉にはネガティブな意味合いが強く、前述の「仄暗い」「薄暗い」など、ホラー 映画のタイトルにでも使われる位に良い印象を受ける人は少ないでしょう。「明るいよりも暗い方が好き」という人もいると思いますが、真っ暗な空間が好きなわけでないはずです。


素敵なレストランやバー、ホテルの照明もある意味では「薄暗い」とも言えるかも知れませんが、実際には「お洒落」「上品」「高級感がある」「雰囲気が良い」「落ち着いた感じ」「大人っぽい」といった表現の方が正しいのではないでしょうか。


安いビジネスホテルの照明は決まって天井に大きなシーリングライトが一つあるだけですが、上質なホテルになるほど色んな種類の照明を適材適所に使っているものです。照明の数はどちらかといえば多いくらいなのですが、一つ一つが綿密に計算されているので、明る過ぎることも暗過ぎることもなく、光が悪目立ちせずに程良い雰囲気を醸し出してくれるのです。


見たい場所や見せたい場所にしっかりと光があたり、逆にそれ以外に光をあてないことで空間の余計なノイズを消す。その繊細ともいえる光をコントロールすることで生まれる上質な灯りの空間。それがライティング・デザインの本質です。


また良質なライティング・デザインはコストパフォーマンスにも貢献します。余計な光を必要としないデザインはそのまま余計なコストを必要としないことにも繋がります。「無いよりはあった方が良いでしょう」というと聞こえは良いかも知れませんが、無駄が多くて良いことなど一つもありません。「何が必要で何が必要でないか」といった取捨選択はデザインに欠かせない最も大事な要素です。


無駄が多いデザインほど醜いものはなく、本当に優れたデザインのものは案外シンプルなものなのです。しかし、「シンプル=少ない」ということではなく、本来のシンプルというのは「無駄がなく単純でわかりやすい」ものです。


一見すると単純に見えるデザインのものでも、本当に素晴らしいデザインは綿密に計算された複雑な結果によって生まれています。世の中に氾濫している単にシンプルなありきたりなデザインは、何も考えていないか、ただの模倣でしかありません。


ライティング・デザインというとクリスマス・イルミネーションのような一見して派手で煌びやかなものと捉えられそうですが、実際に人の心を打つようなライティングはオレンジ一色で縦横ラインが見事に揃ったロサンゼルス・グリフィスパーク天文台から眺める夜景のように案外シンプルなものなのです。


照明は空間に対してのバランスがとても重要で数が多すぎても少なすきても駄目です。また一つ一つの明るさ

も明るければ明るいほど良いわけではなく、他の光に干渉しないのは勿論ですが、広がり過ぎない程度な明るさも大事です。


そのように考えると照明の数が多くなるほどにセンスやバランス感覚が必要になるし、知識や経験も大切な要素です。逆に言えば、少ない照明で部屋全体をとにかく明るくすることがどれほど手軽で簡単かということもいえると思います。

あえてファッションで例えるならTシャツにジーパンだけで、小物やアクセサリーも何もないみたいな感じでしょうか。実際には本当にお洒落な人はTシャツにジーパンでも綿密に計算してコーディネートするものです。一見同じようなスタイルに見えても分かる人にはすぐに違いが分かるでしょうし、具体的な違いがわからなくても何となくお洒落だなとは感じるくらい違うものです。


照明の場合も同じで暗く感じるのであれば、それは単純に照明の数が足りてなかったり、明るさのバランスが悪かったりしているだけで、そのような空間で”「お洒落」「上品」「高級感がある」「雰囲気が良い」「落ち着いた感じ」「大人っぽい」”といった印象を持つことはないと思います。


照明デザインは比較的近年になって生まれた新しい概念です。それゆえに雰囲気が良い空間の「暗い」部分だけが誇張されて、「お洒落=暗い」というような間違った表現が広がっているのだと思います。


有名ブランドの照明を家においていればお洒落に見えるという発想は、エルメスのバッグを持っていればお洒落に見れるというのと同じです。そのような人が陥りがちな照明はあるあるはルイスポールセンのPH5

を部屋に吊るすことではないでしょうか。


ルイスポールセンのPH5は本当に素晴らしい照明の一つです。しかし、それだけでは空間の明るさは十分ではありませんし、ただ天井に下げただけでは本来のPH5が持つ魅了の半分も生かすことが出来ていないのです。


PH5は元々天井高くに設置して部屋全体を明るく照らす照明ではありません。ダイニングテーブルの上に低く下げることで食卓の上を明るく照らし、より食卓を美しく見せてくれるためのものです。


日本でありがちなシーリングライトの替わりにPH5を使えば、部屋全体は以前よりも暗くなります。それを補うように天井に沢山のダウンライトを配置すれば、部屋全体が明るくなる替わりにPH5の光を打ち消すことになり、PH5は単なるオブジェとなってしまいます。


もしPH5の本来の魅力を引き出したいのなら、ダウンライトではなくフロアランプやテーブルランプを壁の周りに配置してあげると良いのです。そうすることでお互いの光が干渉することなく、PH5は食卓をフロアランプやテーブルランプは周囲を明るく照らして「暗い」のではない「雰囲気の良い」空間を作り出してくれるのです。


そのようにして適光適所で照明を配置することがとても重要で、それによって一般的な「お洒落な照明=暗い」といったイメージが払拭されていくのだと思います。


 


『居心地のよい灯りと暮らす』


灯りは暮らしに美しい情景を生み出し、何気ない日常を特別なものにしてくれるもの。私たちは照明とインテリアデザインで豊かな灯りのある暮らしをご提案します。


IN THE LIGHT Lighting Design & Interiors

熊本県熊本市北区武蔵ヶ丘1-15-16


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