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住まいのサステナビリティ

更新日:2021年9月18日

現在の新築戸建住宅の年間着工数は100万戸程度。国土交通省がまとめた「既存住宅流通シェアの国際比較」によると、住宅市場全体に占める中古住宅の流通の割合は、アメリカが77.6%、イギリスが88.8%と高い水準となっているのに対して、日本ではわずか13.5%に過ぎません。

マイホームを検討される方の多くは住宅会社やマンションデベロッパーを訪れますので、おのずと新築が中心になるのは当然かもしれません。


少し前のことですが、アメリカ人のご主人がいる家族から中古住宅のリノベーションの依頼をされたそうです。しかし、家はすでにシロアリだらけで工務店の社長さんは建て替えた方が良いと提案したそうですが、ご主人は「それでも構わないからリノベーションをしてほしい」と言われたそうです。


私たち日本人は「古くなったり壊れたものは捨て新しいものにした方が良い」といった考え方が一般的ですが、欧米の人たちにとっては「古くても使えれば問題ない」、または「壊れたら修理して使えば良い」といった考え方の方が普通です。文化や価値観の違いといってしまえばそれまでですが、いつまでも新しいものが良いのだという考えでは、いつの間にか時代の変化に気付かず取り残されてしまうかも知れません。


様々な場面でサステナビリティやSDGsといった言葉を目にするようになったのは、これまでのスクラップ&ビルド型の社会が行き詰まりを見せ始め、さまざまな問題が表面化してきたことに起因しています。


2015年に製作されたドキュメンタリー映画「THE TRUE COST」では、フェアトレードブランド「ピープル・ツリー」代表のサフィア・ミニー、ファッションデザイナーのステラ・マッカトニー、アウトドアブランド「パタゴニア」の副社長で登山家のリック・リッジウェイといった著名人を始め、途上国の過酷な環境下で働く労働者、経済学者、環境活動家、オーガニックコットンの栽培農家など、様々な視点を元に「消費主義」から成り立つファッション産業の"闇"を浮き彫りにしたものです。


先進国で服が溢れ、企業が利益を上げる一方で、途上国の労働者が置かれる状況が一向に改善しない不条理を問い、消費者の物欲を過度にあおる広告や安価な商品を叩き売るファッションブランドなど、利益至上主義の企業を生み出した現行の経済に対して問題提起をしています。


これらのことは何もファッション業界に限ったことではありませんし、日本でも様々な産業において同様のことが起こっているといっても過言ではないはずです。

私たちが安易に価格の安いものを求めた結果、自国の産業の空洞化や非正規雇用を生み、低賃金や雇用の不安定によってさらに安いものを求めるといった悪循環を作り上げています。


住宅に関しても様々な問題が起こっています。かつてのような右肩上がりの経済ではなくなり、卒業後に正社員として定年まで雇用され続ける補償はありませんし、そもそも正社員という肩書きを手に入れることすら危うい状況です。そのように社会がどんどん変化していく中で、30・40代で一生分の住宅ローンを組んで手に入れる夢のマイホームが本当に正解なのでしょうか。


建築現場においても過酷な労働環境や低賃金、アンフェアな取引関係、談合・贈賄、手抜き工事など、様々な問題が過去にも幾度となく取り上げられながらも実態はほとんど改善されていません。住宅は消耗品ではありません。他のモノと違って買い替えのきかないものがマイホームです。個人で数千万円もする買い物は一生に一度しかないでしょう。


一軒の住宅を作るために使われる資源も相当ですし、それに携わる人の数もそれなりです。それだけのお金と資源と人手をつぎ込んでまで作るのですから、適正な価格で良質で長く住み続けられるものを作るべきだし、そのようにして作られた家を住み手も愛情を持って親から子へと住み継いでいくことが大切です。そのような家だからこそ、流行のデザインで最新設備が整った快適な住宅ではなく、人の暮らしに寄り添う普遍的な価値のあるものを作るべきだと思います。


私が以前に伺ったあるお客様宅は、10年以上前に購入した住宅メーカーのモデルハウスだったそうです。太陽光発電に床暖房、さまざまな最新設備が満載の住宅だったのですが、ほとんどの電気設備はすでに壊れて稼働していませんでした。それでも住み手は何十年もそこに暮らし続けるのです。


流行はそれまでの価値観を壊すことから生まれ、自らをまた否定することによって存続していくもの。そして、それはものを売るための一つの仕組みでしかありません。流行はスクラップ&ビルドをひたすら続けていくしかないのです。ものを売るために生み出される流行のデザインや設備は、これからも常に生まれ続けていくことでしょう。流行の機能や設備は時代と共に価値を失いますが、建物が持つ普遍的な価値は変わりません。


大きな窓から季節を感じる借景、窓を開ければ心地よい風が通り抜け、昼間は太陽からの光が燦々と差し込み、夜には夜景や灯りを愉しめるような暮らし。家の中にいても自然との共生を感じる暮らしこそが、人が感じる普遍的な価値であり、そのような些細なことが何気ない日常を豊かにしてくれるものです。


そのような素敵な家を手に入れることが出来たなら、古くなったから立て替えたいとか最新で快適な家に住みたいなどと思うよりも、この家を大切にして子や孫にまで残してゆきたいという思いが芽生えてくるでしょう。また、そのような家に育った子や孫も同様に受け継いだ家を、愛情を持って大切にしながら住み続けてくれることでしょう。そして、そのことが人や社会にとってどれほど大きな意味を持つかは想像に難しくはないはずです。


本当に良いものは普遍的な機能から生まれたシンプルデザインなものがほとんどです。しかし、そのようなものが簡単に生まれたり、作り続けられる訳ではありません。そのようなものが生まれた背景には相当の苦労と情熱が注がれています。だからこそ普遍的なデザインや価値は時代を超えて多くの人に愛され続けるのです。


安いからといって安易な模倣品に飛びついたり、壊れたら捨てて買い替えれば良いといった文化は、世の中から良質なものづくりをなくしてしまうことに繋がります。サステナブルやSDGsだって表面的にしか捉えていない人や売るための宣伝に利用しているだけの企業によって、本来は流行と対極にあるはずのサステナビリティが持つ意味を見失いかねません。


私たちは限られた選択肢の中で何を大切にして何を手放すべきか今一度きちんと考え、地球上の限られた資源をすべての生物や自然とシェアしながら、持続可能な社会や文化を目指していく選択をするべきではないのでしょうか。





『心地よい灯りのある理想の暮らし』


照明から考える家づくりをコンセプトにした美しい灯りのある暮らしの提案。豊かな灯り文化と上質なインテリアデザインでお客様の理想の住まいをかたちにします。


-IN THE LIGHT Lighting Design & Interiors-

熊本県熊本市北区武蔵ヶ丘1-15-16




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