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マクドナルド化するスターバックス

執筆者の写真: ノグチユウイチロウノグチユウイチロウ

1993年、アメリカの社会学者ジョージ・リッツァが著書『The McDonaldization of Societyマクドナルド化する社会』にて、マクドナルドの経営理念とそれを象徴する合理化が現代社会のあらゆる場所に浸透していることを指摘し、それを「McDonaldization(マクドナルド化)」と名づけ、均一化されたものを大量生産するシステムでは、労働者はマニュアルに従って同じ作業を繰り返し、ベルトコンベアのように人間によらない技術体系で作業効率は向上するとした一方で、効率よく均質な製品を大量生産してするのに熟練は必要としない事から、熟練と能力を殆ど使用しない脱人間化に繋がる傾向にあり、そうした仕事は満足も安定性ももたらさず、その結果、人間関係の希薄化、疎外、欠勤と離職が高くなる事態が生じるといいます。


マクドナルドが成功した理由は、低価格でバリューの高い商品をスピーディかつ効率的に、清潔で居心地のよい空間で提供することでした。1970〜80年代には、「アメリカン・ウェイ・オブ・ライフ」を世界各国に広めることで、グローバル化のトレンドに乗り、世界規模に拡大していきます。「アメリカン・ウェイ・オブ・ライフ」とは、1950年代の朝鮮戦争後に、アメリカで広まったライフスタイルで、郊外型の庭付き戸建住宅、システムキッチン、シアーズの通販カタログに掲載されるような組み立て式の家具、家庭電化製品、プラスティック製・使い捨ての食器、大型自家用車、合成繊維によるカジュアルウェア、ジーンズとスニーカー、冷凍食品、スナック菓子、コカコーラといった大衆消費文化のことです。


1940年、マクドナルド兄弟によって「McDonald's Bar-B-Q」という名のドライブインレストランとして創業したマクドナルドは、1948年にハンバーガースタンドへと生まれ変わります。1950年代にビジネスモデルを大幅に変更し、メニューをシンプルにし、スピーディーサービスに特化した「スピーディーサービスシステム」を導入。ハンバーガーやシェイクなど、車を運転しながらでも食べられるものを提供していました。調理を分業化することでスピーディーなサービスのシステムを確立。現在のファーストフードの原型を作り上げたのです。これが現在のマクドナルドの原型になっています。1950年代のアメリカは本格的な自動車時代の始まりで、マクドナルドの最初の店にはテーブルがなく、移動中の車の中で安くて手軽に食事を済ませられれば、余計な時間を使わずに済むという利便性と効率の良さに人々は魅了されました。


一方で、スターバックスというと、1966年にカリフォルニア州バークレーで、アルフレッド・ピートが創業した「Peet's Coffee & Tea」というコーヒー豆専門店がきっかけで創業。当時、バークレーには全米から物質主義に反対する若者たち(のちにヒッピーと呼ばれる)が集まっており、文化的に洗練されている「Peet's Coffee & Tea」のスペシャルティ・コーヒーはそのような若者たちに人気でした。スターバックスの創業者もそのような若者の一人で、ピートの影響を受け、1971年にシアトルで「Starbucks Coffee. Tea and Spices」というコーヒー豆専門店としてスタートさせています。


1990年代の日本のコーヒー文化は喫茶店で飲むドリップコーヒーが主流でした。そこへエスプレッソをベースとした新しいコーヒー文化を持ち込んだのがスターバックスです。「スターバックス ラテ」や「カフェ モカ」、「キャラメル マキアート」など、コーヒー通にしたら邪道ともいえるものでしたが、それまでコーヒー好きではなかった人にまでコーヒー文化を広げるきっかけとなりました。また、今ではスターバックスの看板商品の一つとなった「フラペチーノ」も、夏でもお客様の求めるものを提供したいという 温暖な気候のカリフォルニアのパートナーの強い想いから誕生し、それによってコーヒーを全く飲まなかった人や子供たちにまでより幅広い層にまで広がることになります。


このようにスターバックスは創業当初から、それまで市場になかった新しい文化を発信することで、従来の顧客以外を獲得することに成功し、今や世界に4万店以上の店舗を構えるほどになっています。マクドナルドを象徴するものの一つとしてドライブスルーがありますが、現在ではスターバックスの多くの店舗でも採用されています。「スターバックスはコーヒーを売っているのではない。体験を売っているのだ。」というハワード・シュルツの言葉には、スターバックスらしさがとてもよく表われたと思いますが、ドライブスルーによって、その最大の特徴である“スターバックス体験”を失ってしまうのではないでしょうか。


かつては物質主義的なライフスタイルに反対する人々たちに支持されていたスターバックスが、今や「アメリカン・ウェイ・オブ・ライフ」を象徴する存在となっています。アメリカ本国のスターバックスは最近の業績不振により、“ファーストフード業界の修理屋”と称賛される実績を持っているブライアン・ニコル氏を会長兼CEOに就任させ、スターバックスコーヒージャパンも、これまでマーケティングやデジタル戦略などを統括してきた、森井久恵氏を社長兼CEOに昇格する人事を発表しました。このことは今後、ますます大衆向けのビジネスモデルに変わっていく可能性が高まったといえるでしょう。


1976年にアメリカ・カリフォルニア州で1創業したアップルコンピューター(現・アップル)。創業者の一人、スティーブ・ジョブズがスタンフォード大学卒業式のスピーチで使った「Stay Hungry, Stay Foolish」というフレーズは、1968年創刊のヒッピー文化などに代表される反体制的なユースカルチャー誌『ホール・アース・カタログ』からの引用です。若かりし日のジョブズ自身もヒッピーで、このようなカルチャーから大きな影響を受けており、元々パーソナルコンピューターも反体制運動的な思想の中で構想されたものでした。アップルの共同創業者のウォズニアックも、「当時、まわりには僕たちより少し年上のヒッピーたちがたくさんいた。この人たちはみんな平等で、大企業に従属しない、よりよい世界を作るテクノロジーを生みだそうとしていた。ふつうの人達に力を与えるための技術こそが正しいんだ、と。ぼくはこれまでこの理想をあきらめたことはないよ」と話しています。


シュルツやジョブズのような存在がいなくなった両社からは、もはやカウンターカルチャー的な要素が無くなり、これまで以上に「マクドナルド化(=合理化)」が進むのではないでしょうか。以前にユニクロであった話として、子供連れのお母さんがユニクロに来て、「子供が具合が悪くなったので電話を貸して欲しい」と言われたが、店長は「できません」と伝えたそうです。何故なら、マニュアルには「私用電話は貸せない」と書いてあったからだったそう。もしかすると将来、スターバックスでもそのような光景を目にする日が来るのかも知れません。



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