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カリフォルニアフィニッシュ

昔、アメリカ・ニューヨークのヴィンテージ家具を扱うあるディーラーが、「ニューヨークでは古いままの状態の家具が好まれるのに対して、カリフォルニアでは新品のようにレストアされたものが好まれる。だから、そういった仕上げをカリフォルニアフィニッシュと呼ぶんだ」という記事を読んだことがあります。面白い話だなと思ったのですが、日本のヴィンテージ家具店でも、その多くがきちんとレストアして販売されていますが、もしかするとそれはアメリカ西海岸の文化の影響なのかも知れません。


1950年代のハーマンミラー社のダイニングテーブルを入手した当初、天板には年代相当の傷や欠けはあるものの、レストアせずにそのまま使っていたのですが、ヴィンテージらしさを纏ったすごくいい雰囲気のテーブルですねと多くの人に言われました。程なくして天板をレストアし、新品のようにキレイになりましたが、かつてのように言われることは無くなりました。


近年、ピエール・ジャンヌレの家具が人気ですが、70年という年月を纏うことで生み出される独特の雰囲気が最大の魅力ではないでしょうか。もしこれが新品同様にレストアされていたとしたら、これほどまで多くの人を魅了しなかったかも知れません。ヴィンテージジーンズも、デッドストックはとても希少ですが、本当に魅力的なのは年代相応に色落ちしたものです。どんなに加工技術が進歩して同じようなものが作れたとしても、オリジナルが持つ歴史をコピーすることは出来ません。


イギリスでは、家はできるだけ長く住むものというのは常識で、イギリスでは100年以上の家が当たり前で、ほとんどの人は中古住宅を購入します。年を経て、深みを増していくものを、修理しながら大事に使い続けるのがイギリス人の文化です。


アメリカは自身の手で家の修繕や改装するDIYが盛んで、中古であることはマイナス評価になりません。リフォームにより家の売却価格を維持したり、上昇させたりすることもあります。自分たちの暮らしに合ったものに変えていくことを好み、リフォームを趣味として楽しみながら住み継いでいきます。


フランスやドイツの文化にも家を修繕しながら大切に使う文化があり、フランスでは、経年によって自然に劣化した素材によるアンティークな美しさが一つの価値観として大切にされています。ドイツでは、19世紀後半から20世紀初頭に建てられた石造りのアパートを「アルトバウ」と呼び、「アルトバウ」とは「古い建築」を指すドイツ語で、そういった古家を好んで住む人々がいます。


日本はまだまだ新品至上主義です。古いものより新しいものを好む人が多く、古いものに対する偏見や差別は少なからずあると思います。ヨーロッパでは築100年以上を経過した歴史ある建築物に、企業が本社を構えることはステータスの一つとなっています。


新しいものは一見すると良さそうに見えても、それはその時代だけの価値だったりすることも少なくありません。古くても時代を超えても現存しているものには、そのモノ自体に本質的な良さや魅力が備わっています。人も物も若くて新しいものは魅力的ですが、本当に深みを感じるのは、その人や物が辿ってきた歴史によるのではないでしょうか。


先のテーブルもレストアする前は、70年という歴史の跡が天板に残っていたからこそ、それが多くの人の心に響いたのだと思います。何でもキレイな方が良いという訳ではなく、古いものは古いなりの雰囲気があって、それが魅力なのだと気付かせてくれました。


長く使っていたら傷が入るのは当たり前、その傷一つ一つがその物の歴史そのものです。そういった意味では、ニューヨーカーがありのままの状態を好むというのは素敵な文化だと思います。


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LIVING WITH LIGHT | 心地よい暮らしの照明術

IN THE LIGHT Lighting Design & Interiors

861-8001 熊本県熊本市北区武蔵ヶ丘1丁目15-16


 
 
 

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