ヴィンテージマンションに暮らす
- Yuichiro Noguchi
- 6月15日
- 読了時間: 5分
更新日:6月24日
一般的にヴィンテージというと、“古い”ものの総称というイメージがありますが、元々はワインに関わる言葉で、ブドウの収穫年を示すものとして使われていました。ワインは、ブドウが収穫された年によって、味と品質に多大な影響を及ぼすため、良質なブドウの豊作年に醸造された当たり年のワインをヴィンテージワインと呼ぶようになりました。東京都内には所謂ヴィンテージマンションと呼ばれるものが数多く存在します。東京文京区にある川口アパートメント(1964年)を始め、原宿のビラ・ビアンカ(1964年)、秀和外苑レジデンス(1967年)、建築家・圓堂政嘉氏が設計した目黒ハウス(1969年)、広尾ガーデンヒルズ(1987年)など、これらのマンションは数多くの著名人らが居を構え、竣工から数十年以上を経ても尚、高い人気を博しています。
通常、一般的なマンションは築年数が経過する毎に資産価値が低下するのに対し、前述のようなヴィンテージマンションは、築年数を経ても物件の価値を維持し続ける、または高めています。いずれも当時の高級マンションとして建築されたもので、元々の造りが贅沢で施設も充実していたり、これらの多くは都心の一等地にあり、立地や環境にも恵まれていて、住まいとして普遍的な価値を多く持ってます。また、古いとはいえ、欧米では建築から200年が経過しても存続している建物もあるくらいなので、50〜60年程度の日本のマンションは、まだまだ若いともいえるでしょう。
日本では戦後復興の政策的なものも関係し、いまだに新築至上主義的な経済環境もあり、良いものを作って長く使うという文化はほとんど根付いていないといっても過言ではありません。いくら堅牢な鉄筋コンクリートのマンションといえども、適切な管理なくしては価値も維持されません。
「誰がそこに住んだか」ということも、建物の価値を決める大きな要素です。以前から「マンションは管理を買え」という言葉を耳にしますが、住人の建物に対するリテラシーは、建物の維持管理に大きな影響を与えます。例えば、広尾ガーデンヒルズには不動産や建築、金融など多様な業界でキャリアを積んだ住人が多く、そのような人たちが管理組合に参加することで、適切な維持管理や修繕がされているそうで、そのようなこともヴィンテージマンションの特徴です。
本当に価値のあるものを所有し、残していくということは、単にノスタルジーなだけでなく、その時代を象徴するようなデザインや素材には、今のものにはない歴史や風情が感じることができる。長い時間を生き抜いてきたものには、飽きのこない美しさと機能性が備わっていて、それを所有する喜びさえ感じることができるでしょう。クラシックカーは、オリジナルの状態に近いほど価値が高いものですが、ヴィンテージマンションも同様ではないでしょうか。元の状態をきちんと保存しつつ、老朽化した部分を作り替えたり、壊れた設備を入れ替えたり、そのように元々の雰囲気を残しつつも、現代の技術でより住みやすくすることも可能です。
アメリカでは、I’M OKのラリー・シェーファー氏が、カリフォルニアのミッド・センチュリー期の建築家ルドルフ・シンドラーの住宅(1935年)を、VISVIMの中村ヒロキ氏は、建築家リチャード・ノイトラによって、1960年代に建てられた住宅を復元するプロジェクトを立ち上げるなど、著名な建築家の住宅を後世に残そうとする人たちもいて、日本でも解体寸前だった吉阪隆正氏の設計した住宅《ヴィラ・クゥクゥ》(1957年)を、鈴木京香さんが継承しています。
ラリー氏曰く、「たとえば椅子を買ったとして、使い続けて2、3年後には“なんだかな…”と思ってしまうことがある。イームズの椅子なんかは、70年前のものであっても、素敵なものが多い。例えば、ヴィンテージのリーバイスは今でも格好いいでしょう。きっと100年後も変わらず格好いいと思いますよ。」
住宅や家具もそうですが、購入したといっても、一時的に所有しているに過ぎません。本当に良いものを作り、それを次の世代に引き継げるように大切に使うことは素晴らしいことです。ヴィンテージマンションは街の歴史を語る存在。大切に住み継がれたヴィンテージマンションは、時代と共に趣を増していきます。ヨーロッパでは、築100年や200年を経過したアパートメントがいくつもあり、そこで暮らすことがステータスにもなっています。
世界的に人気の観光名所といえるフランス・パリは、時代を経ても変わらない街並みが、常に世界中に人々を虜にしています。日本も京都では、条例で景観の保全が行われていて、その本来の日本らしい街並みは、日本人だけでなく海外からの旅行客にもとても人気があります。建築物はその街並みを構成する主な要素だとすると、新しい建物ばかりの都市よりも、歴史ある建物が多くある都市の方が、いかに素敵かというのは想像に難しくはないでしょう。
これまでは、日本では国も企業もいかに大量に安く住宅を供給するかという考えが中心でしたが、人口減少時代に入り、今後は毎年大量の中古住宅が市場に出てきます。サステナビリティの観点からもスクラップ&ビルドではなく、今ある資源や資産を上手に活用していくことが求められています。私たち一人ひとりが使い捨て文化から脱却し、良いものを見分ける目を養い、それを次の世代に引き継いでいくといった文化を育んでいく必要があるのではないでしょうか。

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