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照明は床に置く

更新日:2021年11月8日

照明は天井にあるものというのが一般的ですが、私が照明プランを考える時には如何に低い位置に照明を置くかを意識します。どちらかといえば灯りは低ければ低いほどに良いと思っている位です。


最も太古の灯りといえば焚き火になるかと思います。


平安時代になると「灯台」といって、小さな皿に油を満たし台座にのせて火を灯すようになり、江戸時代には火を灯した皿のまわりに紙を張って風よけにした「行灯」が広まります。


当時の灯りはとても高級なものでしたから庶民は暗くなったら寝るのが当たり前、江戸時代中期になると蝋燭が一般にも普及するようになりますが、現代のように夜でも煌々とした明るさの生活を送るようになるまでは長い年月を経ることとなるのです。


灯台や行灯の小さな灯りの室内は仄暗く、灯りに近づかなければ文字の読み書きも出来ないでしょう。そのことを不便と感じるか風情を感じるかは人それぞれですが、何事も捉え方次第で変わるもの。谷崎潤一郎氏が『陰翳礼讃』に記したように、かつての仄暗さを愉しむ文化や風情が利便性によって失われていく様を案じる人もいます。


慣習や文化も時代とともに変化していくのは世の常ですが、新しいものが必ずしも良いとも限りません。若い人は年寄りの話には耳も傾けないとはよく言われますが、結局は歳を経ると分かるようになるものです。


さて、床に照明を置くとは何ぞやと思われている方にとっては余計だったかもしれませんが、そもそも灯りの始まりは地面に置かれた火であるのだから、照明を床に置くことは何ら不思議でもなく、より手元へ近い場所へ照明を置くことで過度に明るい光は不要になるということです。


それでは暗くなりすぎて不便だと思われるでしょうが、適度な明るさの幾許かの照明が手元にあることで、その柔らかな光は人の心を癒し、心身ともにリラックスした時間を過ごさせてくれます。


少ない照明で全体を明るくしようとすれば、昼間の太陽のように一つの照明の光をより強く高い位置にしなければなりません。それよりも必要最低限の明るさの照明をいくつも置いた方が空間全体が優しい光に包まれ、とても居心地がよくなるのです。

そのようにして出来上がった空間には適度の明るさと仄暗さが入り交じる、まさに夜の灯りを愉しむに相応しい情景が生まれるのです。


文明の歴史とともに進化してきた照明器具ですが、これ以上ないほどに明るく遠くになった灯りを再び丁度良い塩梅に戻すためには、あえて照明を床に置くことから始めてみるのが良いのではないでしょうか。


 

『居心地のよい灯りと暮らす』


灯りは暮らしに美しい情景を生み出し、何気ない日常を特別なものにしてくれるもの。私たちは照明から考えるインテリアデザインで豊かな灯りのある暮らしをご提案します。


IN THE LIGHT Lighting Design & Interiors

熊本県熊本市北区武蔵ヶ丘1-15-16









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