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『大豆田とわ子と三人の元夫』

更新日:2021年10月10日

コロナ禍の中で様々なメディアで建築や家具、インテリアが盛んに取り上げられ、住まいへの関心が高まっています。

しかし、『光=灯り』が空間や人に与える本質的な意味を取り上げるメディアは殆どなく、先日、Eテレで放送された『ハルカの光』という照明専門店を舞台にしてドラマでも、照明器具の背景やデザインといった”モノの価値”については語られるものの、『光=灯り』の持つ効用といった本質的な部分について触れられることはありませんでした。


そのような中で、先週火曜日から放送がスタートした新ドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』(関西テレビ・フジテレビ系)では、映像自体の色調を始め、様々なシーンの照明の使い方がこれまでとは一線を画しているように感じました。


主人公の松たか子演じる大豆田とわ子の元夫役、松田龍平が演じる「田中八作」の自宅は、ミッドセンチュリーを彷彿とさせる突板と濃いブルーの壁紙に囲まれた部屋。照明はルイスポールセンのPH80フロアランプを始め、ベッドサイドのテーブルランプなど、これまでのシーリングライトやダウンライトから降り注ぐ光の部屋でははない、まさに現代版『陰翳礼讃』というべき空間を再現していました。


これまでは多くのテレビドラマでは、シーリングライトや蛍光灯に代表される”白い光”の下で暮らす設定が当然であり、視聴者もそこに疑問を感じたことなどは微塵もなかったと思います。

しかし、『大豆田とわ子と三人の元夫』では、オフィス内の照明すら電球色のライティングがメインに使われ、田中八作の自宅においては天井の照明さえ付いていないかのような部屋の照明の配置には驚きました。 製作サイドがどのような意図を持って、このようなインテリアコーディネートを採用したのか知る由もありませんが、その映像を見た人が、単に「何となくおしゃれ」といった表面的な面だけでなく、『美しい』『心地よい』と感じる空間において、”照明”が果たす本当の役割を知るよい機会になるのかもしれません。


過去のコラムにおいて、サーカディアンリズム https://www.inthelightinteriors.com/post/人と光の理想的な関係(前編)/ について述べていますが、”住まいと光環境”は私たちの体や精神に大きな影響を与えるものです。


日本において蛍光灯は第二次世界大戦後の高度経済成長期から現在に至るまで主流の光源で、日本と欧米の照明文化の違いは、日本人がオフィスや公共施設だけでなく、家庭内でも蛍光灯を使っていたのに対し、ヨーロッパでは白熱電球と同等の光色を持つハロゲン電球を選択していました。


このように圧倒的に蛍光灯が普及していた日本で、暗さをよしとし、温かみのある光の効用を実感する機会が乏しい環境下で育った私たちにとって、本来の住まいのあるべき姿を取り戻すことは意外と難しいのだと実感しています。


「照明」という言葉から多くの日本人が思い浮かべるのは照明器具であって、それらがつくり出す光と闇の光景を想像する人は稀でしょう。


”灯り”は手に取ることができず感覚的なもの。同じ明るさの室内にいても、人にとって明るい暗いの捉え方は違います。そのような”灯り”は身近な存在でありながら、とても遠くにあるのです。


かつての日本人は、闇から光へと至る間の美しさを見出す感性を持っていたのに、戦後の「豊かさ=明るさ」といった価値観や照明の効率を追求するあまり、室内の隅から隅までを照らし出す室内のイメージがベースとなってしまっています。


しかし、家の外へ出て、良質なホテルのラウンジやレストラン、カフェなどを訪れると、光と闇が上手く配置され、夜ならではの雰囲気のある空間に出会うことができます。

海外では、商業空間はもちろん、住空間でさえ、夜になると蝋燭や僅かな灯りを生かした空間をつくり出しています。


そのような体験が多い人ほど、「明るいことが良い」という過去の価値観から自由になり、”本当に心地よい灯りのある暮らし”を送ることができています。


だからこそ日本において、『豊かな灯りの文化』を空間やインテリアに積極的に取り入れることが、私たちの住まいの質や暮らしそのものが大きく変わり始めるのだと思います。






 

『居心地のよい灯りと暮らす』


照明から考える住まいづくりをコンセプトにした暮らしの提案。豊かな灯りと上質なインテリアデザインで一人一人の個性に合わせた理想の住まいをかたちにします。


IN THE LIGHT Lighting Design & Interiors

熊本県熊本市北区武蔵ヶ丘1-15-16





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