これは、オランダ人デザイナーのマルセル・ワンダースの言葉ですが、人はどのような環境で育ったかによって、その人の人生が決定するといっても過言ではありません。
例えば、物心ついた頃から家にピアノがある家庭で育った子供は、他の人よりもピアノに触れる機会が早く、きっと他人よりも上手に弾けるようになるでしょう。上手に弾けて褒められたら嬉しいので、どんどんピアノが好きになって、たくさん練習することでもっと上手くなって、プロの音楽家になるかもしれません。
「可愛い子供には旅をさせろ」とか、「ライオンは自分の子を崖から落とす」といわれるように、あえて過酷な状況に置くことで、より逞しく育つこともあります。
先日、希少動物の保護や保全をされている方の講演を聴いた際に、保護され人の手で育てられた動物は、そのまま自然に戻すと、自ら餌をとることが出来ないので、自然界では生きていけないのだという話がありました。
危険だからということで公園では遊具が撤去されたり、ボール遊びが禁止だったりしていますが、このような環境は安全・安心のように見えますが、そのような育った子供たちは、危険を察知する能力が弱かったり、想像力に乏しかったりするのではないでしょうか。
ストレスフリーな環境で育った人は、ちょっとしたストレスにも弱く、かえってストレスを感じるようになるといいます。人も動物も適度なストレスがある方が、本来の自然に近い、正しい環境といえるのかもしれません。
また、幼少期からスマホやゲームなどで遊んでいた子供は、大きくなって人と一緒に何かをすることが苦手な人が多いそうです。中には他人ということ自体が、ストレスに感じるという人もいるようです。
自転車で転んだことがない人は、自転車に乗れるようになっても転び方が分からないから、いざ事故にあった時は大怪我をすることがあるというのを聞いたことがあります。
昔は家におじいちゃん・おばあちゃんがいる家庭も多かったので、親以外の人の話を聞く機会も多く、親から怒られなくても、おじいちゃん・おばあちゃんから注意されることもありました。今は核家族化が進み、自分の親以外は家にいません。昔と比べると普段からコミュニケーションを取る人も限られています。
大家族の時代は自分の部屋はありませんから、一人になりたい時は外へ遊びに行くか、隠れ家を探さなければいけませんでした。今は自分の部屋があるので、そこへ入れば安心です。
今の暮らしは昔と比べて、随分と便利になりました。医療も進歩して治らなかった病気も治るようになりました。反面、昔はあまり聞かなかったストレスやアレルギーが増え、痴呆や介護などの問題も浮かび上がってきています。
また、現代社会では地域の繋がりが年々弱くなっていて、「仕事がなくなる=社会の居場所がなくなる」ことにもなっています。最小の社会は家族ですが、高齢になって夫婦のどちらかが亡くなるとそこでも一人になります。
先日の講演では、在宅医療についての話もありました。要介護になる前段階として、独居老人という問題があるということでした。核家族化によって、一人暮らしになる高齢者が増えています。一人で食事をするようになると急速に弱っていき、その先で介護が必要になるということだそうです。
テクノロジーや医療は進歩しても、人の営みの本質は何千年も前から変わっていないように思います。家族や社会とどのように関わり合っていくかは、人にとって最も大切なことで、物質的・金銭的な豊かさは、本質とはあまり関係のないようにも感じます。
「その人の周りにあるものが、その人をつくる」この言葉の本質は「モノ」ではなく、人と人との関わり方や価値観が、人を形成するということではないでしょうか。
マルセル・ワンダースはある取材の際に、こう答えています。
「数年前までは住宅やインテリアは徹底的にプライバシーを守るためのものであり、自己表現のツールの一つだった。でも最近では、プライベートな領域に他者を呼び込んで新しいアイデアを得るようなことが盛んになっているよね。パブリックな空間がプライベートになり、プライベートな空間がパブリックになりつつある。これは今起きている文化的イノベーションの一例で、これまでにない変化が起き始めているんだ。」
そういった意味では、多様な考え方を許容できる社会や環境が人にとって重要で、プライバシーを重視する今の日本の住宅や社会は、結果的に人々を弱くすることに繋がるのかもしれません。
LIVING WITH LIGHTS | 心地よい暮らしの照明術
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