ピエール・ブルデューの文化資本論
- ノグチユウイチロウ
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更新日:20 時間前
フランスの社会学者ピエール・ブルデューは、1979年の著書「ディスタンクシオン」の中で、教育や文化といった文化資本を多く持つ人々が、社会の中で何が嗜好を構成するかを決定することができるとし、文化資本の少ない人々は、支配階級による趣味の定義、その結果として生じる高い文化と低い文化の区別、そして経済資本、社会資本、文化資本といった種類の社会的転換に対する制限を自然かつ正当なものとして受け入れていると指摘した。
『文化資本』とは
身体化された文化資本:幼少期から学んだ言語、思考力、作法などの教養
客体化された文化資本:美術品、書籍、楽器などの有形文化財
制度化された文化資本:学歴、資格など、社会的に認められた知識やスキル
文化資本は、「お金以外の豊かな人生を送るために必要なものや能力」とも定義することができ、文化芸術の素養やテーブルマナー、言葉遣い、余暇の過ごし方など、これらを文化的な資本として捉えた概念で、「豊かな人生」とは経済的なものだけでなく、健康や人間関係の充実も含まれ、モノ、価値、行動様式がそれにあたる。例えば同じ年収帯の家族がいて、同じ予算で夕食へ行くとして、ある家族は焼肉食べ放題を選び、一方の家族はイタリアンレストランを選ぶ。つまり、食事というものをどのように捉えているか、お腹いっぱいになるのが目的か、良質なものを適量食べて感動することが目的か、というように判断の根底で影響を与えるのが文化資本である。
人の美的選択は、階級的分派を形成し、ある社会階級と他の社会階級との間に積極的な距離を置く。食べ物、音楽、芸術に対する素因は、子供に教えられ、植え付けられ、これらのクラス固有の嗜好は、子供を彼らの「適切な」社会的地位に導き、他の社会階級のオブジェクトや行動に対しては嫌悪感を持つようになる。
中でも、『味』は文化的覇権の重要な例であり、幼少期に嗜好は深く内在化され、味覚のための社会的再コンディショニングは非常に困難になる。植え付けられ、後天的に獲得された味覚は、その人がある社会階級の出身者であることを恒久的に特定する傾向があり、それが社会的な流動性を阻害する。
ブルデューは、長い期間にわたる行動の継続や繰り返しによって、ほとんど無意識レベルにまで習慣化された行動様式を「ハビトゥス(=habitus. 態度,外観,装い,様子,性質,習慣などを意味するラテン語)」とし、「ハビトゥス」の制限によって生じる社会的不平等によって、文化資本の乏しい人々は支配階級の社会的劣位に置かれるとした。上位階層の人々は美的鑑賞という視線によって芸術作品としてオブジェを受動的に楽しんでいるのに対し、文化資本の乏しい人々は、芸術作品の美学を説明し、評価し、楽しむために必要な優れた教育を持たないため、実用的な娯楽や精神の気晴らしとして対象が機能を果たすことを期待している。
労働者階級の人々は対象物が機能を果たすことを期待しているのに対し、経済的に豊かな人々は、日常生活から切り離された純粋なまなざしを操作することができる。下位の社会階級が何が良くて何が良くないかについて独自の考えを持っているように見えても、支配階級の美学の観点から自己を定義することを常に余儀なくされている。
近代の消費社会において「良い趣味」と「悪趣味」は必ずしも相反するものではなく、大衆が良い趣味の獲得を目指していく過程において悪趣味へと転化していく現象が各所で見られ、「良い趣味」とされる商品に対する需要が生まれると、その商品はすぐに大量生産され、誰もが簡単に購入できるようになる。すると本来個人の美的判断能力が求められていたはずの「良い趣味」が、この判断能力を持たない大衆によって、単に他の人が認めた価値を量産商品の消費を通して真似するだけのものになってしまい、「良い趣味」の象徴としての魅力の根幹をなしている排他性も失われることになる。
また、文化資本が子どもの学力と関係あることが研究により示唆されており、上位階層の子どもは幼少期より本や美術品、芸術、音楽などの正統な文化に触れ、論理的思考や正統な言語能力のほか、さまざまな文化を身に付けることができ、このようにして獲得した文化資本は、正統な文化を教える学校教育になじみやすいため、上位階層の子どもたちは学習を有利に進めることができる。子どもは、親から教わる言葉、与えられるモノ、教育などによって文化資本を身に付けていき、この文化資本により、社会における親の地位が子へと継承されるというのが「文化的再生産論」である。
言語、習慣、伝統、芸術、宗教などの文化や価値観は世襲され、他の文化や価値観に対しては批判的もしくは嫌悪感を持つことで、世襲された文化や価値観が正しいものとして維持されるということだが、これは社会的な立場や階級に限らず、国や文化、宗教、家庭、企業など、さまざまなグループにおいて発生し、単純に階級で分けられるものではないが、それぞれ気が付かないうちに区別され、住み分けされていている。
実際には、所得によって住居エリアが分かれていたり、そのエリアにある店もそれに合ったクラスのものが用意される。高所得者が多いエリアには動物病院、塾、エステ、美容室など、各種専門店が並び、大衆的なエリアにはファストフード店、ディスカウントストア、100円ショップなど、チェーン店が多く存在する。
そのような環境で生まれ育った子供は、それらを自然なものとして受け入れ、またそれらがあることに安心する。反対に、それらがない環境や違う環境に対して、不安を覚え、元の環境に戻ろうとする。例えば、田舎で育った子供が「都会の水が合わない」といって、地元へ戻るというのはまさにその典型で、都会で育った子供が、「田舎暮らしが性に合わない」というのも同様である。このようなことは飲食店を始め、あらゆる店舗においても存在し、それぞれの店はそれらの客層に合ったクラスに分かれる。大衆的なエリアに高級店や専門店が出来ても、文化や価値観の違いからそのエリアでの継続が困難なため、そこでも文化的再生産が行われる。
しかし、大衆的なエリアと高所得者が住むエリアの間では、それぞれの文化や価値観が交差することで文化資本の多様性が生まれやすく、そこから新しい文化や価値観が生み出される可能性は高い。

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