• Yuichiro Noguchi

灯りで壁を照らす

更新日:2021年12月21日

 「照明は天井につけるもの」そんな固定概念が夜のひとときを台無しにしている。

そういうと言い過ぎに聞こえるかも知れませんが、そもそも何故照明が天井にあるべきなのか考えてみたいと思います。


 まず天井にある照明の一番のメリットは、少ない照明器具で効率的に部屋全体を照らすことが出来るということではないでしょうか。

 一つの照明で全体を照らそうとすれば部屋の中心に置くのが理に適っているのは誰でもが思うはずです。しかし、その場合は必ずしも天井である必要は無いはずです。

 もっとも効率的なのは高さも中心にあるべきですが、そこにテーブルや棚などがなければ設置することが出来ないので、結果的に天井が最も邪魔にならないということになります。但し、そこには機能的・効率的といった面だけが優先され、灯りの雰囲気や人の感情は置いてけぼりです。

 照明は単に空間を明るく照らすといった機能面だけでなく、そこから発せられる光によって明暗や色といった空間の質を大きく左右するものです。隅々まで煌々と照らされた照明の下で過ごす時間において作業効率以外に価値は感じられません。

 オフィスや工場、スーパーなど人の感情をそれほど重要視しない場所であればまだしも、住まいにおいてそのような照明の下で暮らすといったことがはたして人にとって良い環境であると言えるのでしょうか。


 「無駄なスペースがなく、効率的に生活ができる住空間。」言葉にすると実に機械的で人間味の欠けた印象を与えるように感じますが、実際、今の住空間に求められる大部分の要素はこの言葉に集約されるように思います。

 「住宅は住むための機械である」とは、かつて20世紀初頭の行き過ぎた装飾文化へのアンチテーゼから生まれたフランスの建築家ル・コルビュジエの言葉ですが、現代の一切の装飾や無駄が排除された住宅には人間味が感じられなり、もはや人の住む環境に相応しいものとはいえないのではないかという印象すら感じざるを得ないのです。


 19〜20世紀初頭の美術・建築界はそれまでの様式美的な文化から「装飾は罪悪」と言い放ったアドルフ・ロースの言葉に代表されるような古い価値観を否定し、新しく機能・合理主義へと移行していった時代です。

それから100年以上が経ち行き過ぎた機能・合理主義から人間らしさを求め、今度は装飾文化の見直しが始まろうとしているのです。

 近年の服飾文化を見ていると、個性的な服装や髪型だけに飽きたらず、ピアスやタトゥー、カラーコンタクト、染髪など過度なファッションはもはやグロテスクですらあり、ファッションにおける装飾はもはや「過ぎたるは猶及ばざるが如し」といった様相を呈している感すらあります。


 ところでタイトルの「灯りで壁を照らす」とは、まさに無数のダウンライトによって埋め尽くされた天井と煌々とした明るさに包まれた住空間に、前述の建築やファッションと同様に行き過ぎたステレオタイプに対するアンチテーゼです。

 灯りが地面や床に置かれていた数百年の歴史を経て、現代のように天井に付くようになったのは僅か100年ほどの前からです。まして日本の一般家庭の天井に照明が付くようになってからは60年ほどしか経っていないのです。

 頭上高くに上がった照明は隅々まで明るく照らすために過度に明るくなり、結果的に強いストレスを与え続けているかも知れません。私たちはそのような環境から脱却するために照明を天井から手元へ近い場所へ変えるのが良いのではないかと思います。


 天井の光を拡散する白い壁や天井はレフ板のような効果を果たし少ない光量でも効率的に拡散します。反対に壁の手の届く位置に取り付けられた照明は天井ほど明るくなくても、充分な明るさを得ることができます。

 目線の先にある柔らかな灯りは程よい明るさで壁を照らし、その間接光によって空間を明るく華やかな印象にしてくれます。

 壁に反射した灯りは壁のテクスチャーをより鮮明に浮き上がらせます。ビニルクロスよりも漆喰や塗装の方が素材の質感が強調されてより魅力的な空間を演出してくれることでしょうし、壁も白よりベージュ系の暖色系の色の方が電球本来の綺麗な琥珀色の灯りを再現することが出来ます。

 あとは手元に必要なタスク照明をいくつか必要な数だけ用意してあげれば、必要充分なだけの人に優しい光環境が整うのです。

 そのような柔らかな灯りの下で暮らす日常は、昼間のストレスから解放された心穏やかで心地よい時間を過ごすことがきっと出来るようになるはずです。 


 「照明は天井につけるもの」といった固定概念を一度捨て、手元に必要な灯りから置くことから始めてみることをオススメします。そうすることで今まで見えていなかったものが少しずつ見えるようになり、これまで気付かなかった小さないくつもの発見が私たちの暮らしを変えてくれるかも知れません。

 


 

『居心地のよい灯りと暮らす』


灯りは暮らしに美しい情景を生み出し、何気ない日常を特別なものにしてくれるもの。私たちは照明とインテリアデザインで豊かな灯りのある暮らしをご提案します。


IN THE LIGHT Lighting Design & Interiors

熊本県熊本市北区武蔵ヶ丘1-15-16


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