国が定めた美容師法の第13条第3号では、美容室の開設者は美容所について"採光・照明及び換気を充分にすること"と書かれており、美容師法施行規則第27条にて、100ルクス以上の明るさを確保することを法律で義務づけられています。ルクスとは照らされた面の明るさ(照度)を表す単位で、数値が大きいほど明るいことを示しています。
一般に100ルクスは、街灯下程度の明るさになりので、法律上ではその程度の明るさがあれば美容のための直接の作業を行ってもよいと判断されるわけですが、実際には100ルクス程度の明るさで美容作業を行うのは困難でしょう。
そのため、美容室の照明器具を決める際は、人々のさまざまな活動を安全・快適に行える視環境を作るために日本工業規格(JIS)が定めた「照明基準総則」を基準にするのが一般的で、JIS照明基準総則では、カラーチェックやカットなどの作業性や安全面を考え、美容・理髪店における照度は1000ルクス以上を推奨しています。
美容室によっては、内装の雰囲気とマッチさせるために、500ルクス〜700ルクスくらいにしている店舗も見受けられますが、作業効率などを考えるとやはり1000ルクス程度はあったほうが良いでしょう。ちなみに1000ルクスとは、スーパーの生鮮食品売り場の明るさですので、必ずしもお店の雰囲気がいいとは言えないかもしれません。
このように美容室の照明の明るさについては、法律によって定められているのですが、色温度について特に言及はされていません。
色温度とは、人工的・自然光の全てを含めた光源が発する「光の色」のことです。ケルビン(K)という単位で色温度の度合いを表し、ケルビンが低いと赤みを帯びた色になり、高いと青みを帯びた色になります。美容室においては、お客様の肌に当てる照明には、約3000Kの「電球色」が推奨です。カラーリングをチェックする照明には、約5000Kの「昼白色」が推奨されます。
また、カラーリングについては十分な照度があれば、髪の染まり具合や色味を正確に判断できるかというと、単純に明るければよいというわけではなく、光源による演色性の違いを考えることが大切です。演色性とは、光源が見え方に及ぼす性質のことで、平均演色評価数(Ra)という単位で表されます。
Raでは自然光に照らされた状態を100と定めているため、Raの数値が高い=100に近いほど自然光で照らされた状態に近くなります。 美容室でヘアカラーの色味をチェックする際は、Raが85以上ある状態が理想とされています。
以上は、美容室における作業性や安全性を考慮した技術的な話になりますが、美容室はお客様が長時間滞在する場所でもあるので、居心地のよさと快適さも重要な要素といえるでしょう。
美容室の照明はというと、色温度が場所によってバラバラだったり、昼白色だけの明るい店内になりがちです。明るい店内の美容室はとても多く、前述の法律や作業性、安全性から見ると当然の結果とも言えますが、お客様や働く人の居心地を考えると、必ずしもそれが正解とは言えない面もあります。
一般的には、美容師の作業環境を考慮した、昼白色の蛍光灯を多用した照明で明るくするケースが多いのですが、鏡に映るお客様の顔色がよくなることや店の雰囲気の演出もかねて、白熱灯で照明デザインする美容室もあります。
比較的「明るめ」の店舗が多いのは、カットの作業効率やカラーリングの色など、作業環境を重視した照明デザインの美容室が多いためですが、明るすぎる空間は目を疲れさせることにもなり、長時間店内で過ごすお客様にとってストレスの原因となります。
また、衛生面や清潔感を大切にする美容室やクリニックの多くで採用されている明るい白い空間ですが、人が落ち着く色は反射率が60%以下の色です。白は光を90%近く反射しますので、眩しさを感じやすく、視神経に負担を与え、頭痛を引き起こす原因にもなり、不安やイライラなどのストレスを生み出します。
ある調査では、無彩色の部屋は常識的で整っていると感じられる一方、有彩色の空間に比べ、快適性と満足度が低いことも分かっています。
最もストレス発散を促すのは鮮やかな赤です。アドレナリンの分泌を促す効果が高い赤色は、交感神経を刺激し、脳の興奮レベルを上げて、血圧を高め、心を奮い立たせ、感情を外へ向かわせるはたらきがあるため、溜め込んでいたストレスや感情を発散させてくれる効果が高いといわれます。
濃いピンク、オレンジ色でも近い作用がもたらされますが、どちらも赤の色みを含んだ色であるためです。黄色も光に最も近い色で気持ちを外へと向かわせるはたらきがあることから、気持ちを明るく楽観的にさせてくれます。
反対に、青や青緑の色は、心のエネルギーを押さえ込み内側に向かわせます。黒や灰色も感情を抑圧・抑制する働きがあり、ストレスをより溜め込みやすくなります。
光はそれ自体は目に見えてなく、壁やモノに光が当たることで認識できます。照明の色も壁の色や空間によって大きく影響を受けるので、同じ色温度でも木の壁のような赤みがかった空間と真っ白な壁では、それぞれ赤みがかって見えたり、青白く見えたりして、それが間接的に前述のような心理的影響を与えるのです。
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