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なぜ日本のインテリアは未熟なのか

更新日:2021年12月25日

 以前のコラム”ファッションとインテリアの密接な関係”( https://www.inthelightinteriors.com/post/epsode_44/ )でも取り上げていますが、あるデータを元に算出っした日本人のインテリアに使う年間の費用はわずか1万5千円ほどです。ファッションに使う金額が年間9万円なのに対して、どれほど日本人がインテリアに興味が無いのかを表す数字だと思います。


 日本の住まいの西洋化は明治時代に始まりますが、まずは外国人居留地に洋風建築が建てられるようになり、その後に日本人の上流階級の住まいでも西洋文化が取り入れられていきます。


 1916年に『あめりか屋』店主・橋口信助氏と女子教育家・三角錫子氏らが「生活を改善する為には、まず生活の器である住まいを変えることが必要」として『住宅改良会』を設立。

 住宅改良会はアメリカで主婦向けに出版されていた『HOUSE&GARDENを手本に、日本初の住宅専門雑誌『住宅』を発行し、住宅の設計競技や住宅関連図書の出版などさまざまな啓蒙活動を行います。


 雑誌『モダンリビング』が創刊されたのは1951年。戦後復興の兆しが見え始め食糧不足も少しずつ解消しつつあるものの豊かさとは程遠く、多くの人々が住む場所にさえ不自由していた時代です。

 「日本の暮らしを少しでも良くしたい」と誕生したML誌の創刊号のタイトルが、『狭くても楽しいわが家 - 夫婦のための最小限住宅』です。その説明文には 「たとえ狭くても、部屋にあった家具と生活用具を自由に組み合わせて飾ること。そこに個性豊かな住い方が生まれます。」との記述があり、まさに今日においても不変的な価値観です。


 『あめりか屋』と『モダンリビング』の間には半世紀もの年月が経てども、人の暮らしを少しでも良くしたいという考え方には共通したものがあり、それは現代においても変わらないものです。

 どちらの時代も庶民の生活は今と比べ物にならない程に貧しく、それ故に「少しでも暮らしを良くしたい」という切実な思いが、そのようなものが生まれる背景にあったのではないでしょうか。


 昭和初期までの日本は今とは比較にならない程の超格差社会です。貧富の差が激しく、そのことが人々を戦争へ向かわせる原動力になった側面があります。戦後の日本は戦争によって多くの人が空襲によって住む場所を失ってしまい、安価で早く大量の住宅を作ることが求められます。高度経済成長期以降も核家族化により新築の需要は年々高まるのですが、それらのことが結果的に質の良くない住宅を大量に生み出すことになっていくのです。


 1972年にニトリ創業者である似鳥昭雄氏が視察のためにアメリカを訪問した際、現地の生活環境が日本と比べてとても豊かであったことに驚き、日本でもアメリカと同じような豊かな暮らしが出来るような家具や雑貨を販売することを決意したそうです。


 このように日本でも「暮らしの質を向上させたい」という思いを持つ人がいつの時代にもいるのですが、人々が質よりも価格の安さや量を求めた結果が今の日本の現状なのだと思います。

 安価で建てられた住宅は欧米と比べて劣化も早く30年で建て替えが当たり前。そのような日本の住宅では使うインテリアも同様に使い捨てのものばかりになるのは当然だともいえます。


 インテリアの歴史を見ても、江戸時代まで続いた日本独自の文化が明治時代の西洋化によって大きく変容していく中で、それらを享受していたのは上流階級に暮らす人々のみ、一般の人々は日々の生活で精一杯だったことが窺い知れます。そして、そのような状況が1970年代頃まで続いていたことを考えると、如何に生活の豊かさや質の向上を訴えようとも一般の人々の間にそのような文化が根付くはずもありません。


 私がインテリアに興味を持つきっかけは20代の時に渡米した時のことです。日本で古着を通して欧米の文化を知ったのですが、実際に現地で暮らし始めると洋服だけでなく、家具や食器、カトラリーなど生活に関わるありとあらゆるものがセカンドハンズ(中古品)として流通して広く人々に根付いている文化を知ったのです。


 90年代の米国での生活は日本のように新しくて綺麗な住まいも最新家電もなく、どちらかといえば少し前の時代に作られたようなものばかりでした。それでも生活するには十分でしたし、皆そのような暮らしをしているので何の不満も感じませんでした。

 それよりも古いモノの中には今まで日本では見たことがないようなデザインのものがあったりして、そのことの方が遥かに興味深く、それらの体験が私の興味をインテリアへ導いてくれたのです。


 ある日、ロサンゼルスの少し小洒落た町にあるガラス張りのお店が目にとまりました。沢山のお店が並ぶロサンゼルスの中でも一際目を引くアートギャラリーのようなヴィンテージ家具店です。

 ガラス越しの店内にはそれまで見たことがないような素晴らしいデザインの古い椅子がまるでアート作品であるかのように展示されていたのです。その時の椅子が何だったのか今では全く覚えていませんが、とても印象的でその感動は30年近く経っても忘れることはありません。


 「最新家電が出ると買い替える」、「新しいクルマが出れば乗り換える」、「マイホームだって新築が良い」、そのような常に新しいものに囲まれた生活とは無縁のアメリカ生活でしたが、冒頭に挙げた”あめりか屋”の橋口信助氏や”ニトリ”の似鳥昭雄氏と同じように、私も米国での経験が後に豊かさを考えるきっかけになるのです。


 日本で暮らしているとブランド品や新品、最新・高性能であることに価値があり、そのようなモノを持っていることが豊かであるかのように錯覚してしまいがちですが、”真の豊かさ”とはそのようなものとは無縁のような気がします。

 

 住まいや家具は大切に使えば何代でも受け継いでいくことが出来るし、本当に素晴らしい普遍的なデザインのものは使い捨てにするのではなく、大切に残していくべきです。

 ”真の豊かさ”とは人の暮らしに役に立つ良いものづくりとそれらを大切にしていこうとする文化によって生まれるものに他なりません。

 

 かつて日本は欧米から模倣品をつくる国だと揶揄されていたそうですが、そこには「どうせ使い捨てにされるのだからデザインだって安易にコピーすれば良いのだ」といった考え方や文化が根底にあるのかも知れません。

 使い捨てにされることが分かっているものに人はお金も手間もかけませんし、そうして作られるものが人を感動させることもないでしょう。


 ブランド店に行列が出来る傍で、イケアや100円ショップはいつも大賑わい。高級外国車が並ぶイケアの駐車場は日本ならではの光景のような気がします。

 人々が質よりも安さや量を追い求めた結果、断捨離やミニマリストといった言葉が流行したりするほどこの国にはモノが溢れています。

 私たち日本人は物質的な意味での豊かさは手に入れているのかも知れませんが、”真の豊かさ”を知るのはまだこれからなのかも知れません。


 

『居心地のよい灯りと暮らす』


灯りは暮らしに美しい情景を生み出し、何気ない日常を特別なものにしてくれるもの。私たちは照明とインテリアデザインで豊かな灯りのある暮らしをご提案します。


IN THE LIGHT Lighting Design & Interiors

熊本県熊本市北区武蔵ヶ丘1-15-16






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